【報告】DX活動事例発表会 DXの力で課題解決へ ~子ども支援の取り組みから~
◆日時:2024年3月7日(木) 13時30分~15時00分
◆場所:NPO・ボランティアサロンぐんま
◆事例発表:
NPO法人共に暮らす 代表理事 アジズ・アフメッドさん
NPO法人居場所作りサポートsamiitos 理事長 今田裕子さん
◆パネルディスカッション・ファシリテーター
NPO法人ターサ・エデュケーション 代表 市村均光さん
◆参加人数:9名(会場)、12名(オンライン)
今回の「DX活用事例発表会」では、デジタルトランスフォーメーションを活用して、子ども支援に取り組んでいる2つの団体さまから発表していただきました。
NPO法人共に暮らす(ともくら)代表のアジズ・アフメッドさんは、日本で仕事をしていた父親と一緒に暮らすため、9歳の時に家族と一緒にパキスタンから来日しました。
現在は企業の広告や映像制作などを手がける、合同会社NOW NEVERの代表でもあります。
▲NPO法人共に暮らす 代表理事 アジズ・アフメッドさん
《ことばのヤングケアラー》
アジズさん、来日当初は当たり前ですが日本語が全くわからないまま、公立の小学校に入学しました。渡日の子どもたちは大人に比べると、比較的早く日本語を習得することが多いのですが、その場合子どもが通訳をするということがよく見受けられます。
実際、アジズさんも日本語ができるようになると、保護者の通院や行政手続きのため、学校を休んで付き添うというような経験をしてきました。このような子どものことを「ことばのヤングケアラー」といいます。
本来なら子どもは勉強をしたり、友達と遊んだり、部活をしたり、将来に思いを馳せたりと…と、子どもとしての時間が必要なはずなのに、「ことばのヤングケラー」となっている子どもたちは、その時間を家族のために費やしています。かといって家族も他に頼る術が少なく、身近な子どもに頼らざるをえないという現状があります。
また学校や役所、病院などでも双方とコミュニケーションができる子どもたちに、つい頼ってしまっていることについて、子どもに負担がかかっていることを理解しつつも、他に術がないという場合もあります。
《実体験にもとづいて、活動をスタート》
アジズさんは大学時代、日本語教育をテーマに研究。自身の子どもの頃の経験にもとづき、日本の小学校で必要な持ち物を説明する動画を制作しました。日本の学校文化は独特で、外国人にとって理解することが難しいとのこと。このような説明動画があることで、正しい情報が入り、子どもや保護者そして学校などの負担が軽減されます。
▲持ち物動画。Youtubeで公開されている。
また日本と違い、高校まで義務教育の国もあるため、日本では高校入学のための試験があることについて理解されていないこともあります。
高校入学や将来の職業選択について動画などを活用し、多言語で広く発信することで、子どもたちの将来の選択肢が広がることが期待されます。
ともくら YouTubeチャンネルでは、小学校で必要となる持ち物動画や、2023年に開催された「日本の高校、専門学校、大学の進学と職業がよくわかるセミナー」についても動画で見ることができます。今後は、それらを多言語化していきたいと考えています。
www.youtube.com/@tomokura-official
また、ショート動画でも「ことばのヤングケラー」などについて、わかりやすく解説したショート動画を発信しています。
NHKのサイトでの取材記事もぜひご覧ください。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20221124a.html
2団体目の発表者は、NPO法人居場所づくりサポートsamiitosu(サミートス)理事長の今田裕子さんです。
サミートスさんは高崎駅からほど近い店舗を拠点として、子ども食堂・学習支援・地域の居場所づくりを三本柱とした活動をされています。特に学習支援活動では、直接指導の他、オンラインでの学習を軸に、児童養護施設や生活困窮家庭の子どもたち1人ひとりに寄り添う学習の場を提供しています。
▲NPO法人居場所作りサポートsamiitos 理事長 今田裕子さん
《オンライン学習のきっかけはコロナ禍》
2020年のコロナウイルスによる感染症拡大を防ぐために行われた「一斉休校」をきっかけに、オンライン授業に踏み切ることになりました。送迎の必要がなく、遠方の子どもへの支援も可能になり、隙間時間を活用するなどのオンラインのメリットがわかってきたそうです。
オンライン授業に手応えを感じたことから、2021年度は児童養護施設での個別指導をスタート。2022年度には、生活困窮家庭や学習が苦手な生徒たち、不登校の小中学生へと無料学習支援の対象者を拡大しました。
オンライン授業を支えるのは、主に東京在住の大学生の有償ボランティアたちです。彼らもまたコロナ禍でアルバイトが減ったりと、厳しい状況になっていました。東京からでもボランティア活動ができるのはオンラインならではです。
《スケジュール管理の難しさをアプリで解決したい》
生徒や講師が増えるともちろん授業も増えます。そうなってくると難しくなるのが、生徒と講師のスケジュール調整です。なんとか負担軽減できないかと思い、開発したのが「スケジュール登録・管理」アプリです。お客さん(会員)にプログラマーの方がいたこともあり、開発に1年半かけ、2023年夏よりスタートし、現在は試用期間中です。講師が空いている時間を登録し、生徒はそれを見て授業を予約するというシステムです。一見すると単純なようですが、開発には時間も費用もかかっています。
▲講師は、空き時間を登録
▲生徒は、学習したい時間などを選択
このアプリを使うことで、大学生の講師たちにとっては、自分たちの空き時間を登録することができ、時間の有効活用ができます。生徒側は、自分で授業を予約することができるので、より主体的にかつ積極的に学習に取り組む姿勢が生まれてきたそうです。以前は、ドタキャンも多かったとか…。
このスケジュール管理アプリが機能することで、管理者であるサミートスさん側もスケジュール調整に時間を費やすことが減ったことで、その時間を学習支援に充てられることになり、また授業が成立しない時の謝礼に悩まされることもなくなったそうです。
後半のパネルディスカッションでは、NPO法人ターサ・エデュケーションの代表理事である市村さんがファシリテーターをつとめてくださいました。
▲NPO法人ターサ・エデュケーション 代表 市村均光さん
市村さんのNPO法人でも学習支援活動をされています。NPOは、制度になっていなかったり、マイノリティの声を受けて、活動や支援を始めることが多いということ。前半の発表を踏まえ、また参加者からの質問にお答えしながら、「子ども支援」×「DX」について、さらに深掘りしていただきました。
《オンライン上での信頼関係は成り立つのか?》
参加者の皆さんも気になっていたことだと思いますが、オンライン上でコミュニケーションがうまくいくのか? リアルな場面での信頼関係があってこそ、オンラインでの信頼につながるのでは?と思っていました。
今田さんによると不登校の子どもたち、生活困窮家庭の子どもたちは、まず顔を出すことからして戸惑いがあるそうです。実際のオンライン学習支援でも顔は出さず、教材を画面共有をすることで、授業にも集中できるとか。
DXは、今の時代にあった子どもの支援が可能になるのではないかと今田さんは考えています。昔の日本と違って、人と人との関わりが薄くなっているのが現在の社会の姿です。
しかしオンライン学習支援を通して気づいたこととして、オンライン上であってもコミュニケーションが生まれ、信頼関係を育んでいくことは可能であること。実際に会う機会はなくても、継続して学習を続けることで小さな成果が積み重なり、成功体験となります。小さな成果をその都度、SNSを通じて保護者に伝えることで、保護者とも信頼関係を築いていくことができます。
たとえオンライン上であっても子どもたちが安心して学べる場があり、また信頼できる人とつながっていることは、子どもを通じて保護者への支援にもつながっていると手応えを感じているそうです。
コロナ禍で必要に迫られ始めたオンラインでの学習支援が思わぬ効果をうみ、さらにアプリ開発へと発展している事例ですが、オンライン授業をする中で、その良さに気づき最大限に活用しているサミートスさんの活動。
声だけ、文字だけでも、オンライン上がサードプレイスになり得るということに、学習支援だけでなく、他の活動でも参考になると感じました。
《デジタルで隙間を埋める》
ともくらさんでり組んでいる、小学校で必要な持ち物動画などは、一見子どもを対象としているようですが、保護者にこそ必要な情報です。外国人への直接の支援として、ぐんま外国人総合相談ワンストップセンターが設置されていたり、市役所でも相談窓口を設けています。
県内には各地に日本語教室もありますし、医療通訳を担うボランティア団体もありますが、言葉の壁もあることからその情報にアクセスすること自体が難しい現状があります。またご近所付き合いなども希薄ということもあり、直接情報を得る手段が限られています。
今後、ともくらさんでは、このような情報をまとめて検索できるようなポータルサイトの開発も検討しているそうです。本来なら行政が取り組むことではないのかと、多少の疑問もありつつも、現状を少しでも変えていきたいという強い思いがあります。インターネットを活用することで、困っているときにすぐに調べられるということは、とても重要なことです。
話が深掘りされていく中で、共通していたことは「子ども支援」は、子どもだけが対象でなく、保護者への支援ということでした。
オンライン、デジタルでの関係性は一見すると希薄のような気もしますが、対面ではできなかったことや、難しかったことをデジタルを活用することで、その隙間を埋めることができるという可能性を感じました。
また学校や行政、他団体など、様々な社会資源とも、リアル+オンライン上でしなやかにつながっていくことで、時間はかかるかもしれませんが、一歩ずつ課題解決に近づくのではないかと思います。
また市村さんから、NPOはボランティアとの調整がとても大変で、かつ収益も上がりづらいということも多い中、サミートスさんのようにアプリを開発し、活用することで負担が減り、事業の継続や発展につながっていくことは、「DX化」の大きなプラス要素というお話もありました。
「子ども支援」、「DX化」。どちらも課題が多く、団体にとっては「DX化」も大きな悩みかもしれません。2団体の発表とパネルディスカッションから、今後の活動のヒントにつながっていただければ幸いです。
◎アンケート結果より
こどもたちや中高生に向けた支援について学ぶことができ、またその支援にデジタルを交えることでより手厚い支援ができるような仕組みを作ってらっしゃる皆さんのお話がきけたこと。
外国にルーツを持つ子どもたちや、その保護者を環境面からも支援すること、その居場所支援の大切さと大学生が社会経験をできることの大切さを当協会の学習支援でも伝えていきたいと思います。
《お詫び》
今回のセミナーでは、会場とオンラインでのハイブリッド開催とさせていただきました。『DX』セミナーにもかかわらず、発表者の顔がオンライン上では見られなかったことなど、不慣れな部分がございましたことをお詫び申し上げます。サロンとしましても、コミュニケーションを第一に「DX化」を進めていければと思います。
◆今回、登壇していただいた、3団体様のWEBサイトもぜひご覧ください。
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